会長挨拶
井口 学
IGUCHI Manabu
日本混相流学会は、1987年7月13日に当時神戸大学教授の赤川浩爾先生を初代会長として発足し、今年で記念すべき20周年を迎えました。今日、本学会が混相流の研究分野で世界の指導的地歩を固められましたのは、歴代会長はじめ会員の皆様のたゆまぬご尽力の賜物であります。厚くお礼申しあげます。私も発足時から一会員として、ともに歩んでまいりましたが、この節目のときに思いがけず会長に選任されましたことは身に余る光栄であります。ただし、なによりもお役に立てるのかどうかと、責務の重さに身のひきしまる思いがしています。私の手元には創刊号から今まですべての“混相流”が揃っていますので、当時を振り返りつつ、今後の本学会の在り方などについて私見を述べさせていただきます。
設立趣意書では、“多相の物質の混合物の流動、伝熱、および反応に関する現象および解析において共通で相似なところが多いので、これらを総合して混相流という共通の立場で取り扱うことが好ましい。”と述べ、これによって既存の基幹学会の学問・技術体系を縦として、混相流という横のつながりを持つ新しい体系の設立を意図したことが示され、国際的活動を重視し、新しい科学・技術の創造に寄与すべきであると結ばれています。これを踏まえて赤川先生は、混相流学会を各自が自分の学会として創造性を高めるために活用してほしいと述べておられます。
このように混相流学会の特徴は、“創造性、横断学会、国際性”にあるといえるでしょう。創造性につきましては、いま注目を集めているナノ・マイクロバブルに見られますように、新しい学問分野の創造と応用に大きな貢献をしております。横断学会としての役割につきましては、数年前に創立10周年を記念して混相流ハンドブックが刊行されましたが、関連分野の現況を網羅的にまとめたものであり、辻前会長が本学会のホ-ムペ-ジで強調されておられますように、横糸であるべしという初期の目的を達成するには、用語の統一も含めて更なる努力が必要とされます。国際性につきましては周知のように、本会が最初に組織した混相流国際会議は今年7月のライプチッヒでは講演数が800件にも達する一大国際会議に成長し、本学会はその運営に大きな役割を演じています。
ただ、気になるのは、赤川先生が述べられた“自分の学会として”本学会をとらえているのかという点です。例年の年会講演会には約200件の発表があり、500人を超える参加者があります。しかし学会誌である“混相流”に投稿される論文は年間約10件、講演会参加者のうち、会員は約4割です。この事実は、混相流分野の研究者、実務者の方が拠り所としているのは本学会ではなく講演会であるといっても過言ではないでしょう。講演会で発表された論文は参加者には共有されますが、その範囲は限られており、やがて消えていきます。学会の活動実績は学会誌や単行本などに記録され、後から来る研究者に資する状態に置かれねばなりません。学会には知の創造だけでなく、知の伝承という役割のあることを忘れてはならないと思います。
これまでの20年を次へ繋げ、初期の目的を達成するためには、活動履歴を残しておく必要があります。最近、赤川先生が“気液二相流研究史と関連技術”と題する著書を出版されましたが、混相流分野でご活躍の先生や実務者の方がシリ-ズで思い入れのある研究内容を出版されることを希望します。また、論文を“混相流”に積極的に投稿していただき、活動実績を学会誌に留める雰囲気を作る必要があります。学会活性化のための議論と実践を切望してやみません。
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