会長挨拶
辻 裕
TSUJI Yutaka
私の会長就任は、一部のベテランや中堅会員の方々に意外という印象を与えたかも知れません。自意識過剰かも知れませんが、任期中に長年勤めた大学の定年を迎える自分の年齢を考えると、やや異例のケースと思っています。先ずはこれについて自分の率直な気持を一言述べることをお許し下さい。
私は混相流学会のグランドでかつては思う存分プレーさせていただきました。学会運営の一軍から退いた後は1ファンとなって、ひいきチームの試合を外野席から応援しているという感じでした。チームが強いか弱いかという程度のことはわかりますが、外野席なので選手の顔やベンチ内の様子はよくつかめません。1年前、筆頭副会長を要請された事は、1ファンが突如グランドに呼び出され、ヘッドコーチになれと言われたことに相当します。チームがどんな状態かどこに問題があるか殆どわかっていません。何よりも自分自身の気力、体力の衰えは隠せません。私にしてみれば、時計の針を逆に戻すような自分のベンチ入りは簡単に受け入れられる話ではありませんでした。しかし、考えに考えた末この要請を素直に光栄と受け止めることにしました。そして1年後の今、会長に選出された次第です。学会の舵取りをすることは想定外として現場から長い間遠ざかっていたため、今だに不安は拭いきれません。久しぶりの現場復帰でしたが、ありがたかったのは、内藤前会長をトップとする2005年度の理事会の全員が古手の私を実に暖かく迎えて下さったことです。この1年間、理事会で焦点のずれた意見を沢山言って皆さんを困らせたのではと思っています。
引き受けた限りビジョンなり目標を示して全力を尽くすのは会員として当然でしょう。内藤前会長は財政立直しという困難な目標をかかげ、それを見事に達成されました。立派というほかありません。健全化された財政を維持することは引き継いだ者の責務です。この責務に加えて、私もまた目標を掲げたいと思います。私の目標は単純で平凡です。それは、混相流学会は横断学会であるという原点に戻り、横断学会の特色を伸ばすことに尽きます。実はこの点を強く意識されたのは、有冨前々会長と内藤前会長であり、両氏が私に託されたことでもあります。
この目標は平凡なことですが、結果を出すことは非常に難しいと考えています。横断学会に対向するものは基幹学会です。基幹学会を具体的に定義すれば、大学や高専などの専攻や学科の名称をつけている学会と言えば判り易いかと思います。機械学会:機械工学科、土木学会:土木工学科、化学工学会:化学工学科、原子力学会:原子力工学科、物理学会:物理学科etc,etcです。専攻や学科に対応しているので、大抵の教職員はこれらの基幹学会に属しています。いわば基幹学会は研究者にとって本籍のような存在です。企業にあっても状況は基本的に同様で、仕事の種類を大分類すれば、高等教育機関の大分類がそのまま適用できます。従って技術者の方々も専攻名や学科名を冠に持つ基幹学会に属することが多いと思います。基幹学会との関係の深さは人によって様々ですが、横断学会の運営はこれを前提にしなければいけないと考えます。
混相流のように小分類に属する専門分野を扱う学会は、基幹学会に対してしばしば専門学会と呼ばれます。しかし単に専門分野を扱うのであれば、別途学会を作る必要はどこにもありません。基幹学会の中でその分野の専門家で組織する研究会や分科会を作れば済むことです。横断学会を作る意味は、異なった基幹学会の会員が交流する場が提供される点にあります。繰り返しますが単に専門分野を扱うことではありません。
真の横断学会であるためには、会員の構成が横断的であることが先ず必要です。次いで、いろんな基幹学会を本籍に持つ方々がバランスよく本会の運営に参画することと思います。学会の執行部はこの点を常に意識しなければなりません。混相流学会が横断学会であるということは創立以来の本会の理念で、言うまでもないというご意見があるかと思います。事実、歴代の執行部の努力によって、様々な分野の方々が新たに我々の仲間に加わっていただいています。しかし私は横断の幅がまだまだ広がる余地があると思っています。毎年の年会の参加者の中で非会員の方々が占める割合は5割をはるかに超えています。例えば、2006年8月金沢工大で開催された年会では約450名の方々が登録されましたが、学生も含めるとその中のおよそ7割は非会員の人達でした。最近話題を集めている本会主催のマイクロバブルの行事に至っては参加者の8割以上は非会員です。これらの方々には是非会員になっていただくことを期待します。また、かつて会員であった人たちの中には去っていった方々や本会内での活動を低下させた方々も多くおられると感じています。それらの仲間にも戻ってきていただきたいと願っています。
私の任期中に私自身が目指す横断学会の姿にすることは不可能です。しかし方向付けだけはしたいと思います。現在の会員の中に会の舵取りを託したい適任者は沢山おられます。しかしそれらの人達にいきなり理事や会長になっていただくことには無理があります。そこで私が強く望むことは、先ずは本会の各種委員会ではできるだけ異なったバックグラウンドを持つ方々に委員になっていただき、次の時代の委員長、理事、副会長、会長の候補者リストに名を連ねていただくことです。今期だけでなく将来にわたってもこの点を配慮した運営体制を維持していただきたいと思います。
以上では運営面についてもっぱら述べましたが、最後に研究面で横断学会がうまく機能するための条件についても私見を述べます。本会の会員は、混相流という糸で結ばれていますが、本籍または出身地となる基幹学会は異なります。異なるバックグランドを持つ人々からなる集団がうまくやっていくためには、互いに他の文化を尊重することです。例えば混相流の理論解析の手法は基幹学会によって随分異なります。互いに切磋琢磨することは結構なことですが、ある基幹分野で認められている手法を軽々しく批判したり否定することはよくありません。受け入れられている手法には必ず背景と理由があります。やりこめて否定することは、狭い地域に多数の宗教が入り混じり、宗派の違いでいがみ合い、互いを傷つけあい、国を衰退させることと変わりません。多様な背景を持つもの同士が互いを尊重し交流し、基幹学会の中にいただけでは得られない広い視野を持つことができる点に横断学会に所属する意味があります。
会員が横断学会ならではのメリットを感じる、そのような学会を目指して、井口筆頭副会長、奈良林副会長、賞雅副会長をはじめとする今期の役員の皆様と一緒にがんばりたいと思います。
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